揖保乃糸が看板商品である森口製粉製麺ですが、それ以外にもオリジナル商品がたくさんあります。そのことをもっと皆さんに知ってほしい!ということで、オリジナル商品についてどんどん紹介していきたいと思っています。
オリジナル商品をつくるときに森口が大切にしているのは、おいしさはもちろんのこと、まだ食べたことがない新しさや面白さ、ワクワク感です。ユニークな商品が生まれやすいように、社員やスタッフからアイデアを募集して食べ比べ、美味しかったものは期間限定のクラフト乾麺として販売することもあります。
もちろん、なかには試作品でボツになったり、自信を持って世に送り出しても思ったほど売れなかったという失敗談もあります。
とはいえ、どの商品にも思い入れがあり、ストーリーがあります。今回、取り上げるのは「ひやむぎ 南極」。三代目・森口三郎の弟で元常務取締役である四郎さんにお聞きした開発当時のお話をもとに、ひやむぎ 南極について紹介したいと思います。
江戸時代からそうめんづくりが盛んだった龍野で、麺づくりに没頭していた森口家が株式会社となったのは戦後まもなくの昭和23年でした。明治の頃からいち早く機械麺づくりに成功していた森口家、新しいものに挑戦する気持ちは二代目・森口萬次郎にも引き継がれていました。
かねてから「揖保乃糸だけじゃない、森口ならではの新しいオリジナル商品をつくりたい」と考えていた萬次郎さんが着目したのはひやむぎでした。
そうめんが手で伸ばす文化なら、ひやむぎは包丁で切ってつくる麺文化で、歴史的には似て非なるもの。それ故に機械麺づくりに最適で、そうめんよりも食べ応えのあるひやむぎは、森口のオリジナル商品にぴったりでした。揖保乃糸をつくる森口ならではの水、小麦、塩にこだわり、つるっとした食感と喉越しの良さを目指したひやむぎを開発しました。
中身が完成したら、次は商品名とパッケージです。自信を持っておすすめできる商品ができても、パッと覚えやすく、親しみやすいネーミングとパッケージでなければ、なかなか手に取ってもらうのは難しいものです。
そこで活躍したのが萬次郎さんの子どもたち。後の三代目となる三郎さん、昭三さん、四郎さんに千代子さん、久子さん、満智子さん…当時は子だくさんの家庭が多く、森口家にもたくさんの兄弟姉妹がいました。彼らはどんな名前なら、長く愛される商品になるかを考え、話し合いました。
そんな兄弟たちの目に止まったのが、当時話題となっていた南極観測隊です。1956年(昭和31年)、日本は南極に向けて56人の第1次隊南極地域観測隊が出発。昭和基地を開設し、11人が越冬しました。第1次隊南極地域観測隊の活躍は後に「南極物語」として映画化もされたほど。
萬次郎さんが考えたひやむぎは、つるっとした食感とのど越しの良さが特徴。初夏に食べたいひんやりとした美味しさと、南極観測隊をヒントに「冷たい」「涼しげ」というイメージが良いのでは、と兄弟で考えたのが「ひやむぎ 南極」というネーミングでした。
「ひやむぎ 南極」のパッケージデザインは四郎さんの高校の同級生で、絵が得意な友達が原案をつくってくれたものだそうです。セルリアンブルーとかわいらしいペンギンのコントラストが印象的なそのパッケージは、当時では画期的だったそうです。現在では、「レトロかわいい」と、普段食品類をあまり置かない雑貨店からもオーダーがあるほど。
パッケージデザインは商品の顔。現在でも、新商品をつくるたびに「手に取ってもらいやすいデザインになっているか」「商品の魅力がちゃんと伝えられているか」など、皆でああでもないこうでもないと一生懸命考えています。そんななかで、ひやむぎの製法もデザインも発売当初から変わっていないのは、萬次郎さんや四郎さんをはじめ、当時開発に関わった人たちが一生懸命考えて、いい商品をつくってくれたからこそ。
「ひやむぎ 南極」は数ある商品の中でも「ずっと変わらないでいてほしい」というご要望が一番多い定番商品でもあります。私たちもこんなふうに末長く愛される商品をもっと生み出していきたいと思います。
昭和30年代前後は南極観測隊だけでなく、エベレスト人類初登頂や日本人のマナスル初登頂、旧ソ連の人工衛星スプートニクの打ち上げ成功などが次々と報道されて、新しい世界にわくわくする時代でした。日本も高度成長期の幕開け、そんな時代に生まれた庶民に愛される味が「ひやむぎ 南極」です。時代は変われど、家族で食卓を囲み、麺類をすする団らんの姿は現在も変わりません。
パッケージは表面だけでなく、裏面の「茹で方」など細かい部分も当時のまま。昭和ならではの言い回しがかわいらしいので、お手に取られた際にはぜひ見てみてください。
ひんやり、冷たいイメージで名付けられた「ひやむぎ 南極」ですが、冬には温かいにゅうめんにもおすすめです。ひやむぎはピンクやグリーンの色麺が入っていて彩りもあり、ツルッとした食感ながらもやさしい味わいで胃をホッと温めてくれます。そうめんよりも少し太めなので食べ応えもあり、うどんだと多いけどそうめんじゃ物足りないという場面にぴったりです。
これまでも、これからも変わらない、森口のフロンティア精神が詰まった「ひやむぎ 南極」をよろしくお願いいたします。